サッチャーBANは防衛有利な環境を作るか?:APAC North Division 2020 Stage 1を事例に

1. 序論

 近年、レインボーシックスシージの競技シーンでは、戦術としてサッチャーBANを採るチームが大半を占めている。SiegeGGによれば、今季、US、EU、ブラジル、APAC Northの四大トップリーグのいずれにおいても、最もBANされた攻撃オペレーターはサッチャーであった。*1*2*3*4

 Pick&BANシステムがシージに導入されたプロリーグ シーズン8当初からサッチャーBANという戦術はちらほら見られたものの、決してありふれた戦術ではなく、どちらかと言えば奇襲に近い一手であった。しかしシーズンが進むにつれて、サッチャーBANの割合は急増し、チームとして想定しなければならない当たり前の一手となっていった。

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 サッチャーBAN戦術を採用することで、攻撃側は補強壁を割りにくくなり、ドローンを回しにくくなり、マップに散りばめられたガジェットを排除しにくくなる。すなわち「防衛有利」の環境をワンプッシュで作り出すことができるのだが、この戦術が定石となって久しい今日この頃、果たしてサッチャーBANは効果的な戦術であり続けているのだろうか。本稿では、標記の通り、APAC North Division 2020 Stage 1を題材に取り、サッチャーBANが防衛側のラウンド取得率向上に寄与しているかを検証する。

2. 方法

  SiegeGGのCompetitionsより、APAC North Division 2020 Stage 1およびSix August 2020 Major - APAC NorthにおけるオペレーターBAN状況、攻防取得ラウンド数、使用マップを参照した。参照した試合数は65試合、マップ数は73マップである。*5*6

 なお、1試合、Fnatic対Electrify EsportsについてはSiegeGGにBANのデータがなかったため、配信アーカイブにて試合を確認した。集計したデータは下表のとおりである。

  サッチャーBAN 攻撃取得ラウンド数 防衛取得ラウンド数 マップ
1 9 3 テーマパーク
2 5 9 クラブハウス
3 7 5 カフェ
4 7 5 クラブハウス
5 5 7 オレゴン
6 11 3 クラブハウス
7 6 3 カフェ
8 × 5 4 海岸線
9 5 9 クラブハウス
10 5 9 ヴィラ
11 × 7 4 海岸線
12 5 5 ヴィラ
13 5 3 オレゴン
14 3 6 カフェ
15 × 11 3 領事館
16 3 9 クラブハウス
17 6 5 テーマパーク
18 5 6 クラブハウス
19 10 5 カフェ
20 8 6 領事館
21 3 5 クラブハウス
22 4 5 オレゴン
23 5 5 カフェ
24 5 10 テーマパーク
25 7 7 クラブハウス
26 4 7 オレゴン
27 × 7 3 海岸線
28 5 6 カフェ
29 3 7 オレゴン
30 5 5 クラブハウス
31 3 6 カフェ
32 4 5 クラブハウス
33 × 5 7 ヴィラ
34 1 6 ヴィラ
35 5 5 カフェ
36 × 7 5 海岸線
37 3 9 オレゴン
38 × 7 5 クラブハウス
39 7 8 クラブハウス
40 × 11 3 海岸線
41 × 4 7 オレゴン
42 9 6 カフェ
43 3 5 ヴィラ
44 × 4 5 クラブハウス
45 5 4 領事館
46 7 5 クラブハウス
47 5 4 領事館
48 × 5 5 テーマパーク
49 5 5 オレゴン
50 × 6 5 領事館
51 × 1 11 領事館
52 × 7 1 海岸線
53 × 5 3 海岸線
54 3 7 オレゴン
55 × 5 7 領事館
56 × 5 9 領事館
57 7 5 ヴィラ
58 × 5 5 海岸線
59 × 11 3 海岸線
60 × 7 5 領事館
61 3 7 カフェ
62 × 5 7 クラブハウス
63 × 3 11 ヴィラ
64 × 5 6 海岸線
65 10 5 クラブハウス
66 × 4 11 オレゴン
67 5 7 カフェ
68 5 5 オレゴン
69 × 7 3 領事館
70 3 8 ヴィラ
71 × 2 9 オレゴン
72 7 5 クラブハウス
73 1 6 カフェ

3. 結果

  まず、今季の防衛取得率をサッチャーBANの有無で比較する。下表に示す通り、防衛取得率は全試合通して51.6%であった。サッチャーBANしたマップ(47マップ)、サッチャーBANしていないマップ(26マップ)の防衛取得率はそれぞれ53.0%、49.3%であり、サッチャーBANによって防衛取得率が向上しているように見受けられる。

  全試合数 全ラウンド数 攻撃取得ラウンド数 防衛取得ラウンド数 防衛取得率
全体 73 823 398 425 51.6%
サッチャーBAN 47 525 247 278 53.0%
notサッチャーBAN 26 298 151 147 49.3%

 しかし、 この比較はマップ間のサッチャーの重要度の差異を考慮していない。割るべきところを割らないと攻略が難しいとされるクラブハウスやカフェのようなマップと、海岸線のようなnonハードブリーチャーで何とかなるマップでは、サッチャーをBANするモチベーションも異なるが、この分析では両者をごっちゃにして考えている。そこで、サッチャーBANの有無による防衛取得率の変化をマップごとに確かめた。

 結果は下表のとおりである。驚くべきことに、サッチャーが必ずBANされていたカフェ、サッチャーBANが無かった海岸線以外の5マップ全てで、サッチャーBANをしない方が防衛取得率が高い、という結果になった。前述の全体としての傾向は、海岸線の低い防衛取得率に引っ張られた結果であり、海岸線、カフェを除く5マップではむしろサッチャーBANは防衛取得率を下げるという結果になった。

  全試合数 全ラウンド数 攻撃取得ラウンド数 防衛取得ラウンド数 防衛取得率
クラブ
ハウス
全体 17 205 102 103 50.2%
サッチャーBAN 14 172 86 86 50.0%
notサッチャーBAN 3 33 16 17 51.5%
オレゴン 全体 12 129 47 82 63.6%
サッチャーBAN 9 92 37 55 59.8%
notサッチャーBAN 3 37 10 27 73.0%
ヴィラ 全体 8 88 32 56 63.6%
サッチャーBAN 6 62 24 38 61.3%
notサッチャーBAN 2 26 8 18 69.2%
領事館 全体 10 117 60 57 48.7%
サッチャーBAN 3 32 18 14 43.8%
notサッチャーBAN 7 85 42 43 50.6%
カフェ 全体 12 129 62 67 51.9%
サッチャーBAN 12 129 62 67 51.9%
notサッチャーBAN 0 0 0 0 -
海岸線 全体 10 107 70 37 34.6%
サッチャーBAN 0 0 0 0 -
notサッチャーBAN 10 107 70 37 34.6%
テーマ
パーク
全体 4 48 25 23 47.9%
サッチャーBAN 3 38 20 18 47.4%
notサッチャーBAN 1 10 5 5 50.0%

 4. 結論

 ということで、サッチャーBANは現環境においては防衛取得率を高めないっぽいです。どのチームもサッチャーBAN環境下での練習を積んでおり、サッチャーがいなくても攻撃を通す策を確立している印象を受けました。むしろ、サッチャー以外の重要オペをBANして、意表を突くほうが刺さるのかなーとクソ素人は思います。というか、そもそもサッチャーBANの理由が違うのかな…?

 とりあえず、トッププロのレベルになると、もはやサッチャーBANで攻撃を止めることはできない、という示唆が得られましたね。サンプル数が少ないので、今後は他地域との比較、前シーズンの傾向、他オペのBANによる防衛取得率の変化、なんかを見ていきたいと思います。