差がつくマップ、差がつかないマップ
1. 序論
昨日、ふり~ださんがこんな動画を上げていました。
もう皆さんご覧になったかと思いますが、2月に開催されるSix Invitational 2021で久しぶりにシージを観戦する人向けに、現環境におけるマップの人気度と攻防のバランスを解説しておられます。かなり興味深い内容で、FAV GamingのShiN選手やOdeNMisoコーチも言及しておられましたが、この動画の中で僕が気になったポイントが、「習熟度によって差がつきやすいマップがある」というご指摘です。
ちょっと話が変わりますが、以前、僕はTwitterで下記のように、マップごとの防衛取得率を例に出して競技シーンマップの攻防のバランスについて言及したことがありました。
今年の世界大会におけるマップピック順位とそれぞれのマップの攻防ラウンド勝率をまとめました。領事館って意外と防衛マップじゃない?という印象操作のための図です。 pic.twitter.com/PcYJ8hDD0z
— ボンゴレドミンゴ (@vongole_domingo) 2020年12月8日
このツイートで僕は、領事館の防衛取得率が思いのほか高いことを指して、(半ば冗談気味に)領事館は防衛マップであると結論付けています。この結論、改めて考えるとかなり論理の飛躍があります。なぜなら、マップの防衛取得率とはチームの戦術の相性や実力差、オペレーターBAN、マップの攻防のバランスなどを総合して算出される平均的な結果であって、その結果をもって攻防のバランスのみを議論するのは難しい(ノイズが多い)と考えられるからです。ふり~ださんが動画内で、「今回の分類はデータを基にしていない」「防衛取得率の実績を見ていない」的なことを仰っていましたが、まさに、実績値のみを用いて攻防のバランスの議論をするのは片手落ち感があるため、攻防のバランスの議論は有識者の主観、理論に頼るべきであると僕は思います。
ただ、防衛取得率というデータを使って競技マップをうだうだ論じることが全くできないかというと、これには別の使い方がある気がします。話が戻りますが、「習熟度によって差がつきやすいマップがある」というご指摘、これは言い換えると、「チームによって防衛取得率が大きく異なるマップがある」という議論ではないでしょうか。すなわち、あるマップについてチームごとの防衛取得率のばらつきを見ることで、そのマップが「試合で差をつけやすいマップ」かどうかが分かるのでは。これを知ってから観戦すると、試合の流れを考えるうえで一つの軸ができると思います。
そこで本稿では、現行の競技シーン7マップについて、今シーズンのトッププロたちの試合における防衛取得率のばらつきから、習熟度によって違いを生み出せるマップか否かを分類していきたいと思います。
2. 方法
Siege GGから、今シーズン行われた下記の大会について、各試合各チームの防衛取得率をマップごとに数え上げました。
・Canada Division 2020 Finals
・Oceania 2020 Finals
・South Asia 2020 Finals
・APAC North Division 2020 Finals
・European League 2020 Finals
・Six Invitational 2021 Asia-Pacific Qualifier
・Six Invitational 2021 North America Qualifier
・Six Invitational 2021 Europe Qualifier
・Six Invitational 2021 Latin America Qualifier
プレイされた総マップ数は121。7マップそれぞれについて防衛取得率のヒストグラムを取り、ばらつきを見ました。
3. 結果と考察
まず初めに、一応、各マップの平均防衛取得率を見ておきましょう。
順番がめちゃくちゃなのはご容赦願いたいのですが、ざっくり、今シーズンの全マップ平均防衛取得率は54.0%でした。やや防衛側が多くラウンドを獲得していますが、昨シーズンよりはマシになっていそうです。20秒メタからの解放を感じます。で、数字の上では、いまのところ領事館と海岸線が攻撃側がラウンドを多く取得しており、オレゴン、テーマパーク、カフェあたりが防衛側に大きく傾いていますね。クラブハウスとヴィラが比較的バランスしているように見えます。まあこれはあくまで平均値、こういう結果でした、というところですね。問題はこの中身がどれだけばらついているかです。
領事館
まず、領事館を見てみましょう。守れないマップと言われて久しく、実際に今シーズンは平均的には守れてない方のマップです。
グラフの見方ですが、防衛取得率を20%刻みに5本のバーに分類しています。例えば、今回の集計の範囲だと、防衛取得率が0%~20%が7件あった、ということになりますね。
領事館は13回ピックされたので、13×2=26チームが防衛したわけですが、こうして見ると5本のバーの高さにほとんど差がないことが分かります。試合によって防衛取得率が大きく異なる、すなわち、チームの練度の差が出やすいマップであることが言えるのではないでしょうか。とはいえ、最も高いバーが0%~20%であることを考えると、「基本的にはあまり防衛で取れないが、練度の高いチームはきっちり防衛を取ってくる」という考察が可能かと思います。
ちなみに、どういうチームが具体的に領事館の防衛を多く取っているかを見てみると、CAG(60%)、BeastCoast(80%)、G2(67%)といった名前が上がってきます。特にG2はEU FinalのBDS戦で独特の配置を敷いて2階ボムをしっかり守り切っており、領事館を手札として「持っている」チームなのでは。InvitationalではCAGとG2がグループ予選からぶつかりますが、領事館の攻防をぜひ見てみたいです。
海岸線
次は、マッププール入れ替え候補筆頭(だと勝手に思っている)海岸線です。海岸線、15回ピックされ、30チームが防衛しているのでまあまあ人気がないことはないのですが、見てると自然と口がほころぶ(苦笑い)展開が多いですよね。
領事館とは異なり、防衛取得率の分布がかなり左に寄っています。領事館は「基本的にはあまり防衛で取れないが、練度の高いチームはきっちり防衛を取ってくる」でしたが、海岸線は「みんな等しく守れない」マップであると言えるでしょう。ただし、一番高い山は40%~60%の山なので、ラウンドスコアで言えば3-3で折り返す試合が最も期待されます。印象ほど壊滅的に守れていないわけではなさそうです。
ちなみに、海岸線防衛を通しまくった(60%~100%)チームが6チームあることがグラフから見て取れますが、この内訳はMkers1、Chaos1、RentFree1、Malvinas1、FURIA2となっています。特にFURIAとMkersについては、Invitationalにおいてはアンダードッグ的な印象があるかもしれないですが、うっかり海岸線を選んでしまうと思い切り噛み砕かれる恐れがあります。
クラブハウス
ここ1年くらい大人気マップであるクラブハウスを見てみましょう。集計期間中も最も多くピックされており、25回プレイされ、50チームが防衛を行いました。いわゆる手順マップ、攻撃側がやるべきことがある程度固定化されているこのマップこそ、チームの練度が試されるという印象が強くあります。
領事館と同等の傾向がヒストグラムから読み取れます。5本のバーのばらつきがなだらかであり、試合によって防衛取得率がまちまちです。中央3本のバーが高く、4-2、3-3、2-4で折り返すケースが6割くらいあるのかな。「攻防のバランスが取れているが、練度の差がよく出るマップ」と言えるかもしれません。
Invitational出場チームの動向を見ると、G2、FURIAが安定して防衛を通している一方で、Altiora、VP、BDSあたりのチームが安定していません。相手チームにもよるので一概には言えないですが、領事館に引き続き、G2の得意マップと言えるのではないでしょうか。
オレゴン
次は、リワークされ、競技シーンに戻ってきてから引っ張りだこのオレゴンです。21回ピックされ、42チームが防衛したこのマップ、昨シーズンまでと比較するとやや人気が落ち着いたかな、という感じ。
かなり防衛取得率の分布が固まってますね。3分の2のチームが3-3ないしは4-2で防衛を取得した、という形になっています。今回は拠点ごとの取得率を見ていないので推測になりますが、地下と2階に比して1階の拠点が脆いのがこのマップの特徴だと思うので、各チーム地下と2階を確実に取得し、1階は…という感じなんでしょう。「取れる拠点が限定されており、チームの練度に差がない」マップと言えるのでは。
どこも同じような防衛取得率なので特筆すべきチームはいないのですが、強いて言えば、ここまでよく名前を出しているFURIAはあまりオレゴンで防衛を取れていません。そんぐらいです。
ヴィラ
実はずっとそんなに人気ないマップ、ヴィラです。集計期間では16回ピックされ、32チームが防衛しています。上記の平均防衛取得率ではかなり攻防のバランスが取れているように見えましたが、実際のところどうなんでしょう。
…僕にはどうこの結果を見ればいいのかよく分かりません。バーの分布がなだらかに右肩下がりですが0~20%のバーだけ露骨に低いので、「チームによって差が出るマップで、基本攻撃有利だが防衛側が全く取れないわけではない」という玉虫色の評価になってしまいました。一番高いバーが20%~40%なので、攻撃優勢の折り返しが多いマップと言えるのか?とはいえ他のバーとの差がそこまでないので、チームによって差が出るマップという見方もできます。ヴィラってここ最近まで防衛が有利なイメージがあったのですが、何があったのでしょう。盾メタ弱体化の煽りを一番受けているマップかもしれません。
Invitational出場チームとヴィラの関係性ですが、実は集計期間中、当該チームがヴィラを戦った事例がほとんどありません。わずかにWildcardやMkersがプレイしてるくらいですね。各チーム、ヴィラに嫌な思い出があるんでしょうか。
テーマパーク
最近だとVirtue選手のスーパークラッチが記憶に新しいですが、圧倒的不人気マップのテーマパークです。集計期間中にBO5がちょくちょくあったおかげか、11回もプレイされ、22チームが防衛しています。マニアックなマップなので練度の差が出そうですが、実際どうだったんでしょうか。
かなりバーの高低差が見て取れます。60%~80%の山が図抜けているので、「どのチームもある程度防衛取る」マップだと言えそうですね。結局、このマップってどの拠点が一番強いんでしょうか。ランクマッチだと謁見室が1stピックになりがちですが、競技シーン見ていると儀式の間以外はどこも1stピックで使われていますよね。
Invitational出場チームも安定して防衛でラウンドを取得しています。そのレベルのチームになるとテーマパークの防衛で大事故を起こすことはないんでしょうね。逆に言えば、テーマパークは奇襲として用いてもあまり効果がなさそう、と言えるでしょう。
カフェ
最後に、実績値では完全に防衛有利のカフェを見てみましょう。20回ピックされ、40チームが防衛しています。ふり~ださんの動画の中でも言及されていましたが、攻撃側が時間との闘いを強いられるマップな気がするので、実際に防衛が有利なんでしょうね。
予想通り、右肩上がりのバーの並びとなりました。「そこまでチーム間の差が出ない防衛で取り合うマップ」と言えるのではないでしょうか。カフェリワーク当初は3階が最強だったと思うのですが、研究が進むにつれ、読書を1stに取るチームも増えてますよね。掘削機展示室も奇襲的に使える拠点だと思いますし、選択肢が豊富で防衛側が快適に守れるマップと言えるのでは。L字が守りにくくなったならもっと前線上げてシガーラウンジ中で守ればいいじゃない、というゴリラ的発想好きです。
4. 結論
現行の競技シーン7マップについて、今シーズンのトッププロたちの試合における防衛取得率のばらつきから、習熟度によって違いを生み出せるマップか否かを分類してみました。結果を下表にまとめます。
攻防実績値はあくまで実績値で、実際の攻防のバランスとは別物である点にはご留意ください。まあ恣意的なまとめではありますが、こうしてみると、いわゆる攻撃有利マップと考えられている海岸線と領事館もその性質が異なること、クラブハウスやヴィラといったマップはチームの差が出やすいと予想されること、防衛の取得率が高いマップはそこまでチーム間の差が出ないことが示唆されました。一つの考え方として、試合観戦の参考になれば幸いです。Invitational楽しみですね。