FLORESは競技シーンの環境を変えるか:NA、EUの初週に着目して

1. はじめに

 こんばんは。「FLORESは競技シーンの環境を変えるか」とかいうタイトルを付けましたが、データを見ずとも有識者に聞けば100%「環境は変わった」と答えそうな今シーズン、まだ始まって間もないですが、データの上でもいくつか大きな変化が起こっているようです。本稿では、FLORESが解禁されて1週間、NAとEUでどの程度ピックされたか、また、それに対して防衛はどのような対策を講じたのか、見ていこうと思います。そんなに長くはならないと思うので、どうかお付き合いください。

2. データ収集について

 本稿では、FLORESの登場による環境の変化を調べるため、以下の手順でデータを収集しました。

① 「FLORES環境」だった試合の抽出

 まず、NA、EUの2021 Stage2 Week1の試合から、FLORESがよく用いられている試合、すなわち「FLORES環境」だった試合をピックアップします。まだFLORESが登場して間もないことから、採用の有無は各チームによってばらつきがあります。本稿では、SiegeGGのスタッツでFLORESがMainATKに記載されている試合(下画像参照)を、FLORESの存在を念頭に置いてゲームが進む「FLORES環境」と定義し、分析の対象としました。

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赤枠で囲った部分にFLORESのアイコンがあればその試合は「FLORES環境」

https://siege.gg/matches/5884-nal-na-darkzero-esports-vs-spacestation-gaming

② 対象となる試合のデータ収集

 「FLORES環境」の試合を観戦し、マップ、オペレーターBAN、ラウンド勝敗、防衛側ピック、フローレスの有無をデータとして記録しました。中身を見ている試合、見てない試合があるので試合展開の話はふわっとした主観になってしまうことをご了承ください。

③ 留意事項

 ここまで書いていて気づいたのですが、FLORESが環境に与えた影響を考えるのであれば「FLORES環境」と非「FLORES環境」の比較が最も望ましいです。しかし、現状、前者のデータしかとっていないので、今回はその辺を大目に見てもらえると助かります。気が向いたら後者もデータをとります。

3. 結果と考察

① 対象となる試合

  NAとEUのWeek1ではNA8試合、EU5試合の計13試合が行われました。このうち、「FLORES環境」に該当するのは

の6試合です。だいたい半分くらいの試合でFLORESがよく使われていたんですね。ラウンド総数は74ラウンド、マップ分布は海岸線29ラウンド、ヴィラ14ラウンド、領事館14ラウンド、山荘10ラウンド、カフェ7ラウンドとなっています。全体として、もともと「攻撃マップ」と呼ばれがちなマップがサンプル中にかなり多いことはご留意ください。

② FLORESのプレゼンス

 全74ラウンド中、FLORESがピックされたラウンドは37ラウンド、ピック率はちょうど50%でした。内訳を見てみると、FLORESを使うチームはほぼ全ラウンドでピックしている一方、使わないチームは全く使わない、という傾向が見られます。まだFLORESを出す出さないで駆け引きをするチームは少なく、練習してきたFLORESタクティクスを実践で試す、という段階なのかもしれません。

② 防衛ラウンド取得率

 対象となった74ラウンド中、防衛が取得したラウンドは29ラウンド。防衛ラウンド取得率は39.2%となりました。攻撃マップが多いとはいえ、かなり低い数値です。例えば先月のInvを見ても、山荘を除くすべてのマップで防衛ラウンド取得率は50%を超えていました。それを思えば、39.2%、ラウンドにして2-4、という取得率はいきなり低くなったな、という印象を抱かざるを得ません。

 ちなみに、FLORESがいたラウンドといなかったラウンドを比較すると、いたラウンドの防衛ラウンド取得率は35.1%(13/37)、いなかったラウンドでは43.2%(16/37)でした。やはりFLORESがいると攻撃の破壊力が増すことが見て取れますが、一方で、FLORESがいなかったラウンドでも取得率は50%を下回っており、「FLORESが出てくる可能性がある」だけで防衛のピックが変わり、守りにくくなっていることが推察されます。

(もっとも、まだ二桁ラウンドなので攻撃側に数値が揺らいでいるだけかもしれません)

③ 防衛側ピック

 防衛側のピックが変わったと先ほど述べましたが、具体的にはどのような変化があったのでしょうか。下表をご覧ください。

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「FLORES環境」でピックされた防衛オペレーターのピック率。23オペがピックされた。

 例えば昨シーズンのEUなんかと見比べていただけると分かるのですが、特筆すべきはやはり、MUTEとMOZZIEというドローン阻害の2大巨頭、特にMUTEが頻繁にピックされていることでしょう。ラテロの侵入を防ぐことで重要拠点を守る、という発想が伺えますね。

 ほかにピック率が高いオペレーターを見ると、SMOKE、JAGER、WAMAI、MELUSI、MAESTROといった見知った名前があります。昨年から続く防弾ガジェットメタにドローン阻害の要素をプラスして守ろう、というのがやはり主流なようです。一方で、ALIBI、WARDENといった展開型シールドを持っているがゆえに重宝されていたオペレーターは、MUTEやMOZZIEに枠を奪われたのか、FLORES環境ではピックされていませんね。先述の通り、この守り方で防衛ラウンド取得率は暴落しているため、なにかブレイクスルーが無いとしんどそうな印象を受けます。

 全ラウンドを対象にしたピック率の議論は「防弾ガジェット+ドローン阻害」が結論になりそうですが、個別のチームを見てみると(ぼくが)あまり見たことない守り方をしているチームもいました。例えばDarkZeroは「防弾ガジェットなし、情報取って前で当たる」という守り方を徹底しており、VIGIL、ECHO、PULSEを積極的にピックしていました。いわゆる「置き得」タイプのオペはどうせ壊されちゃうから入れない、という戦略を取っているようです。面白いのが、DarkZero自身は攻撃でそこまでFLORESを使わないんですよね。後述するROGUEもそうなのですが、FLORES対策で防弾ガジェットが減っている環境を逆手にとって、FINKAだったりTWITCHだったり、これまで枠の都合で入れにくかった撃ち合い卍をよく採用してました。

ROGUEがすごそう(こなみ)

 ROGUEのピックがけっこう面白くて、防衛ではLESIONやELAといったFLORESに壊されにくいガジェットを持つ人たちを重用して対策しつつ、攻撃では、これまでの防弾ガジェットメタでは投げものが貧弱ゆえに採用しにくかったオペレーターを重点的にピックしていました。なんか今EUアーカイブが見れないので記憶を頼りに列挙しますが、DOKKAEBI、LION、IQ、TWITCH、NOKKが基本のラインナップでした。ヤバすぎませんか。こんな感じで、FLORESを見せ札に攻撃側が色んな作戦を組めるのは今環境のいいところだと思います。

4. まとめ

 以上、本稿では、FLORESが解禁されて1週間、NAとEUでどの程度ピックされたか、また、それに対して防衛はどのような対策を講じたのかを中心にいろいろ考えました。

 大方の予想通り、FLORESの登場によって従来の守り方はかなり厳しく、しばらくは攻撃有利の環境が続きそうです。ともすれば競技シーンを壊しかねないFLORESの登場ですが、しかし、これまで割職割職ソフブリソフブリフラグ持ち、みたいなピックの固定化が顕著だった環境もぶっ壊してくれそうで、個人的にはかなり楽しみです。防衛側も、防弾ガジェットが相対的に貧弱になってしまった以上、情報と罠を見つめなおさないと厳しい気がします。やってる皆さんにとってはしんどい気もしますが、見てる分には新鮮でワクワクしますね。これからもFLORES環境には注視していきたいところです。