世界大会に見る人気ボムサイトの推移①:海岸線、領事館、クラブハウス

1. 序論

 レインボーシックスシージというゲームで最もポピュラーなゲームモードは「爆弾」でしょう。マップ内の決められた場所に攻撃側はディフューザーを設置しようとし、防衛側はそれを防ごうとする。ボムがある場所はマップごとに(覚えてる限りではどこでも)4か所ずつ存在し、防衛側はその中から1か所を選んで拠点とする。当然、4か所の防衛しやすさは均一ではなく、守りやすい拠点、守りにくい拠点が存在します。結果、4か所が選ばれる割合は均等ではなく、守りやすい拠点はより多く選ばれるでしょう。

 その「守りやすさ」の順番ですが、これは常に一様ではないと考えられます。シーズンが変わればオペレーターの数も増えるし、ガジェットの使い勝手が変わることもあります。こと競技シーンにおいては、よく守られる防衛場所のセオリーは研究されますし、陳腐化していくことも考えられるでしょう。よって、環境と研究という2つの要素によって、「守りやすさ」は変容していきます。マップが出てきた当初は○○という拠点を1stピックにしていたけど、今では××を最初に選ぶよね、というケース、誰にとっても思い当たる節があるのではないでしょうか。

 現在、競技シーンにおいて用いられているマップは7つです。これらのマップでは、Y5S3まで、ボムサイトの人気はどのように推移してきたのでしょうか。本稿では、コンスタントに3か月に1回、つまりシーズンごとに行われてきた世界大会における、各マップのボムサイトピック状況をまとめ、その推移を見ていきます。書き始めたら結構な量になったので、2回に分けて書いていこうと思います。

 なお、一つ言い訳させていただくと、書いてる私が競技シーンを見始めたのは常滑のPLファイナルからでして、それ以前の環境はあまり分かっていません(常滑以後も正しく理解できてるか怪しいですが)。結果のところで、この時期はこんな環境だったのでは?とか偉そうに書いてますが、間違ってたり認識不足があればご教示いただけますと幸いです。

2. 方法

 データの出典はいつも通りSiege GGです。加えて、Liquipediaより、どのマップがいつから競技シーンに参入しているかを調べました。

liquipedia.net

 今回、分析対象としたマップは、現行の競技シーンで用いられている7マップ。本稿では、前半3マップについて触れます。

・海岸線

・領事館

・クラブハウス

・ヴィラ

・カフェ

・テーマパーク

オレゴン

  7マップそれぞれについて、世界大会でのピック回数、各ボムサイトのピック回数とその割合、防衛側勝率をまとめました。ここで、世界大会とは、旧プロリーグ制度下のPL Finals、Major大会、Invitational大会、現行プロリーグ制度下の4大地域(US、EU、BRAZIL、APAC North)の地域Major大会を指します。

 分析対象範囲は、7マップが現在用いられている形になってからです。すなわち、領事館は1地下が追加されてから、クラブハウス、カフェ、オレゴンはリワークが入ってから分析しています。

3. 結果

 それぞれのマップについて、ボムサイトのピック状況を見てみましょう。

海岸線

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  現在、最も古くから今ある形で競技シーンで用いられているマップです。今から遡ること3年半、2017年5月に開催されたPL Season4 Finalsで既にマッププールに入っていたわけですが、当初はあまりピックされず、世界大会においてその姿を見せるのは遅れること9か月、Invitational 2018になってからでした。防衛側勝率は一貫して50%近傍やや下回るといった感じで、生まれた時から攻撃マップと言えるでしょう。最近、防衛側勝率が上がっていますが、これは、昨今の盾メタが強すぎて全体的に防衛側が有利な傾向にあることの表れと考えられます。

 Inv2018当時、最も人気だった拠点は「ペントハウス/劇場」でした。次いで「キッチン/勝手口」、「ブルーバー/サンライズバー」、最も不人気な拠点が「フッカーラウンジ/ビリヤードルーム」。どのボムサイトも外から入って4秒で現地、みたいな構造になっているわけですが、その中でも外直が比較的少ない「ペントハウス/劇場」が好まれたのでしょう。なぜ「フッカーラウンジ/ビリヤードルーム」が不人気だったかはラウンドのサンプルが少なくてよくわからないですが、恐らく、古の時代に流行っていたらしいGLAZとYINGによるもくもくピカピカ大作戦と、フッカーラウンジの構造の相性が良すぎて、簡単にプラントまで行けてしまうのが理由ではないでしょうか。

 この頃の試合を観ていると、「ペントハウス/劇場」は劇場からペントハウスに向けてミラを貼り、VIPとペントハウスの間は3枚閉めきり、なんならショックワイヤーも置いちゃう、という形。攻撃側はロビーからの突き上げでブラックミラーを壊し、劇場階段から圧をかける一方で、VIP~ホールオブフェイムの敵を排除して進行、という感じに見えます。下に貼ったGrand Finalでは、当時ACOG持ちだったDOCをピックして積極的に前に出て撃ち合う姿も見られました。やはりこの頃から、拠点自体は脆く、遊撃で攻撃側を削ることが必須だったのでしょうか。

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 当初こそ「ペントハウス/劇場」は1stピックとなる拠点でしたが、徐々にピック率を下げ、9か月後のSeason9 Finalsではついに一度もピックされなくなりました。代わりに「フッカーラウンジ/ビリヤードルーム」が1stの位置に上り詰めています。序論で、環境と研究によってボムサイトの人気が変わる、と言いましたが、海岸線の環境に関してはMAESTROの登場ともくもくピカピカ大作戦の弱体化が大きかったりするのでしょうか。イービルアイでフッカー見れるし、みたいな。あと、ソファからSMOKEの壁越しガスグレネードでボム裏のプラント止められるのっていつ見つかったんでしょうかね。それにフッカーのボムの強さって大きく依存してる気がします。

 最近では、「フッカーラウンジ/ビリヤードルーム」と「キッチン/勝手口」のピック率が同程度で、どちらかが1stピックという傾向になっています。「キッチン/勝手口」は全期間安定して高いピック率を維持していますが、拠点内がほぼほぼ全部突き下げできて居場所ない、という意味では、他の拠点とどこが違うのかな?と思ったりもします。防衛側が広がりやすく、攻撃側の取るべき手順が他の拠点に比べて多いのかしら。他の拠点は平面で完結する場合も多いように思うけど、キッチン勝手口はラッシュ以外ならほぼほぼ上取る手順入りますもんね。

 ところで、ここしばらく「ペントハウス/劇場」のピック率は低位ですが、実は防衛側の勝率が高い拠点でもあり、初見殺しとして有効に機能していることが分かります。私の記憶に新しいのはAPAC Northの出場権を賭けた試合におけるFAVの守りで、CLASHとDOCでごりごりにDJブースと勝負していた印象が強いです。実装当初から変わらず、やっぱりこの拠点は早めの撃ち合いを主体にするしかなく、再現性に乏しいのかもしれないですね。

領事館

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  1地下の追加が2018年の夏ごろにあったので集計期間は海岸線より短いですが、マップ自体は最も古くから存在している領事館を見てみましょう。最近、特に2階の防衛を指して「もう守れない」と言われている領事館ですが、Major Raleighくらいまでは防衛側の方がラウンドを多く取得するマップでした。その後、攻撃側で領事館の環境を一新させうるオペ追加や変更って無い気がするので、研究が飽和した結果の「もう守れない」マップなのかもしれないですね。

 1地下追加当初のPL8 Finalsでは2階と地下が同程度守られていましたが、その後半年くらいは2階が1stピックとなることが多かったようです。下に貼ったPL9 finalsのsemi finalでは防衛スタートのEmpireがやはり2階を1stピックとしていますが、それに対するFnaticは初手管理事務攻めの選択肢を取っていました。今でこそ、非常階段とCEOオフィスで完結するような攻めが主流ですが、当時は攻撃は管理事務から侵攻し、防衛は会議室とか長机のラインで頑張る、という構図が主流だったのでしょうか。www.youtube.com

 PL8 finals、Inv2019、PL9 Finalsの2階における防衛側勝率は、それぞれ50%、61%、20%となっていました。これ以降は50%を割っており、領事館が守りにくくなった潮流は、まず最も人気であった2階が研究の深化によって守れなくなったことから始まったのかもしれません。

 2階が守れなくなり、最近人気なのが地下守りです。実は地下守り、集計期間中6/8が防衛側勝率50%超であり、「もう守れない」領事館における良心となっています。地下と言えば、攻撃側は上階をきれいにした後、ガレージを割って、どこでプラントしてるでしょうかじゃんけんを仕掛けるという印象がありますが、その傾向はずっと変わってないみたいですね。防衛側としては、最後のじゃんけんに勝つ確率を上げるためにイービルアイやバンシー置いたりしますが、今シーズンからそういった置物が壊しやすくなるはずなので、もしかしたら領事館の良心が崩壊するかもですね。いっそう上階での遊撃が重要になるのかも。

 領事館に肝いりで登場した1地下ですが、1年半くらい、ピック率1桁時代を経験します。しかし、誰が最初に始めたのか知りませんが、去年の11月くらいからピック率が10%を超えるようになってきて、最近では2階を放棄して1地下を選ぶチームが珍しくないくらいになってきたように思います。1地下の守り方も第2段階に入ってきているような気がしていて、地下から1階をニトロで飛ばすだけでなく、終盤まで1階に広く展開するチームがちょくちょくいるようないないような。

クラブハウス

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 こちらも古参マップ、クラブハウスです。マエストロとアリバイが登場したシーズンにリワークされたのかな?そこからカウントしています。基本的に防衛マップと呼んで差し支えないマップであると思います。一つの外れ値的PLs9 Finalsを除けば、防衛側勝率が50%超えてますし。

 数字だけ見るとずーっと地下が1stピックですが、ジムベッドと監視金庫のピック率も高く、チームによって1stピックを自由に選べる、良マップと言えるでしょう(バー倉庫から目をそらしながら)。しかしその中でも、拠点ごとに防衛側勝率を見ていくと、最も安定しているのが地下です。ここ1年間、一度も防衛側勝率が60%を割っていません。1年前、というとSSG守りが開発されたのがその時期かもう少し前でしょうか。籠っても強い拠点ですが、ドローンメタを敷いてマップ全体を広く使う、というオプションが出来たことでさらに守りやすい拠点となったみたいですね。

  バー倉庫のピック率が地を這っていますが、たまにピックされても防衛側が負けるケースの方が多く、もしかすると競技シーン中最弱の拠点かもしれません。一応、面白かった初見殺しバー倉庫守りの解説動画だけ載せておきます。

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4. 中締め

 大会マップ7つのうち、古くから用いられている3マップを取り上げて紹介しました。研究が進んでいるからでしょうか、海岸線と領事館の古参組はいい加減守るのが難しい状態に来ていることが改めて確認されましたね。クラブハウスはリワークが入ったこともあって、まだまだ現役で戦えそう。

 残りの4マップについても、データはすでにとってあるので気が向いたら書こうと思います。4000字を越えてくると途端にやる気がなくなってしまいますね。

 冒頭でも言いましたが、マップの歴史について大いに私の見解が間違っていることが予想されるので、「ここはこうじゃね?」というご意見をたくさんいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。