USG・Sekiheki選手のカウンター乗り越えが好き

1. 序論

 先日投稿した「トップリーグの40チームをカテゴリー分けしてみよう」はおかげさまで多くの方々に見ていただけました。アクセス数は300倍以上になり、告知のツイートも3桁RTをいただき、私史上、一番多くの反応を頂いた記事になりました。古来より、少しでもbuzzった時にはそれに乗じて宣伝をしろ、とネットには伝わっております。そこで本稿では、私の最推しプレイヤーであるUSG(Unsold Stuff Gaming)のSekiheki選手について、なぜ好きなのか、語っていきたいと思います。

 最推し、と言うと古参のファンのように思われるかもしれませんが、実は全然ニワカでして、Sekiheki選手がUSGに加入してから好きになった口です。

 SouLBoi選手が野良連合に移籍したことを受け、今年の3月4日、プロリーグシーズン11の後半戦からUSGに加入したSekiheki選手。リーグ屈指のアタッカーであったSouLBoi選手の後釜ということで期待、プレッシャーともに大きかったと思いますが、物怖じせずにアッシュとイェーガーを即ピするストロングスタイルに、タダものではない感をビンビンに漂わせてのデビューを果たしていたのが印象的でした。PLでもコンスタントな活躍を見せていたSekiheki選手ですが、彼の名が一躍轟いたのはAPAC NORTH 日本代表決定戦ではないでしょうか。

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 残念ながら、チームとしては惜しくもLosers Finalで敗れてしまったものの、何度でも海岸線サンライズバーのカウンターを乗り越え、クラブハウスのブルーを取りきるSekiheki選手の動きに驚嘆したPLファンは少なくないでしょう。適当なことを言いますが、この決定戦以降、サンライズバーのカウンター中に入って守るチームが減った気がします。Sekiheki選手のあまりに綺麗な攻略によって、戦術のメタさえも変わってしまったのではないでしょうか(個人の感想です)。

 Sekiheki選手が一流のアタッカーである、というのは異論の余地がないと思うのですが、では、彼のプレースタイルは数字でどのように表現されるのでしょうか。まだプロシーンに参戦して間もなく、サンプル数は少ないのですが、数字を見ながら、Sekiheki選手の魅力を考えていきたいと思います。

2. 方法

 Sekiheki選手がUSGに加わってからの全試合を網羅して議論したかったのですが、そもそも配信試合ではなくデータが取れないパターンが散見されたので、プロリーグでの試合、かつ配信アーカイブが残っていた以下の8試合、14マップ、142ラウンドを対象としました。全て半年くらい前の試合なので、その点ご留意ください。

・Japan プロリーグ シーズンXI PlayDay9 vs 野良連合 2MAP

・Japan プロリーグ シーズンXI PlayDay11 vs DNG 2MAP

・APAC NORTH 日本代表決定戦 DAY1 vs YGL テーマパークのラウンド11~12

・同上 クラブハウスのラウンド9~11

・APAC NORTH 日本代表決定戦 DAY1 vs GUTS 海岸線

・APAC NORTH 日本代表決定戦 DAY1 vs LBX 3MAP

・APAC NORTH 日本代表決定戦 DAY2 vs DNG 2MAP

・APAC NORTH 日本代表決定戦 DAY2 vs FAV 2MAP

 私の知る限り、APAC NORTH 日本代表決定戦はSiegeGG等でスタッツが公開されていない&既存のスタッツだけではSekiheki選手の魅力を語るに不十分、ということで、上記の試合を改めて観戦、それによってデータを収集しました。収集したデータの項目は、キル数、オープニングキル数(OPK)、生存数、被カバー数、プラント数、解除数、KOST、マルチキルラウンド数、人数有利時キル数、人数イーブン時キル数、人数不利時キル数です。KOSTは計算式が定かではないのですが、こちらの記事で推測した算出方法を用います。1v1勝率とかも出してみたかったんですが、配信で確認できない場所でのキルデスを追うのが無理だったので断念しました。リプレイ機能の実装に期待ですね。数字に間違いなどある場合、ご指摘いただければ幸いです。

3. 結果と考察

  下表が集計結果の一部になります。あくまで、配信で確認できた断片的なスタッツであることにご留意ください。

Team Name K-D OPK round KOST SRV Plant Disable ATK op DEF op
USG Sekiheki 105-120 16 142 52% 15% 0 0 Ash Jager

  これらの数字はSiegeGGで採用されているスタッツです。つまり、試合を観ずに数字だけで選手の能力を判断しようとする人にとっては、これらの数字がSekiheki選手のすべてになります。率直に申し上げて、このスタッツだけでSekiheki選手を評価すると、見誤ります。

「アッシュとイェーガーメインでKPRが105/142=0.74はそれほど高くないし、KOSTは平均を下回っている。SRV15%も決して褒められた数字ではない」

これを見て、そう評価する人もいるかもしれません。しかし、それは大きな間違いであると思います。

 まず、KPR0.74という数字ですが、これはUSG(2020年3月当時)のチーム特性上、キルが一選手に集中せず、結果としてキル数が抑制されていることに起因します。改めて試合を観ていて感じたのですが、USGの他の選手、NoTimeGG選手、EightBtBst選手、KeM1CaL選手、KohK1選手がラウンドごとにファーストブラッドを取り合っており、試合展開や相手の出方に応じてどこでも勝負できるチームがUSGではないでしょうか。昔のアニメで「我々の間にはチームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。あるとすればスタンドプレーから生じるチームワークだけだ。」という言葉がありましたが、私はこれはUSGのためにある言葉だと勝手に思っています。なんにせよ、Sekiheki選手が切り拓くラウンドももちろん多いのですが、USGは個々が5つしかないキルプールを奪い合うような特性のチームであるため、キル数が突出しなかったと考えられます。

 次に、貢献度を示すKOSTがそれほど高くない件ですが、これはKOSTという指標の、ある種欠陥とも言える仕様によってSekiheki選手の貢献度が低く見積もられていると考えられます。KOSTはその計算式の都合上、マルチキルしたラウンドと0キルでカバーを入れてもらったラウンドの貢献度が等しく見積もられます。その結果、キルを稼ぐ爆発力のある選手のKOSTは印象よりも低く算出されるのですが、それがまさにSekiheki選手に当てはまっていると言えます。Sekiheki選手が2キル以上稼いだマルチキルラウンド数は142ラウンド中27ラウンドと、全体の19%に及びます。Sekiheki選手一人で2人以上の人数優位を作ったラウンドが約5分の1あるということで、激しい爆発力を感じます。ちなみに、人数シチュエーション別のキルを見ると、人数優位時のキルが44キル、人数イーブン時のキルが35キル、人数不利時のキルが26キルでした。試合を決定づけるようなキルの多さがうかがえますね。

 最後に、SRV、生存率ですが、これはSekiheki選手のロールを考えるとある種仕方ない低さなのかな、と思います。現在のUSGではまた違った形をとっているかもしれませんが、2020年3月当時のUSGにおけるSekiheki選手は、攻撃では主導隊から離れて重要拠点を一人で取りに行く、防衛ではローミングからのリテイクを狙うプレイスタイルのように見えます。ハイリスクハイリターンな仕掛けを要求され、それにこたえているラウンドが多いのですが、一方で生きて帰ることは許されないポジションでした。実際、数字で見てもSekiheki選手がデスした後の被カバー率は14%程度にとどまっています。かなり損な役回りともいえるポジションなので、SRVが低いのもむべなるかなといった感じです。

 以上、何が言いたいかというと、数字でSekiheki選手の魅力を表現することは難しいのです。KOSTやSRVなど、選手評価の主流の数字だけでこの選手を語ろうとすると、どうしても片手落ちになってしまうのです。Sekiheki選手の魅力はスニークインのタイミングの良さ、カバーラインやロックを喰らう獰猛さなど、見ている側を熱くさせるプレースタイルにあると思っていますが、それは冷たい数字の羅列にはどうしても現れてきません。ここには統計や定量評価の限界があると思っています。私は数字を使ってシージの競技シーンを色々考えることが好きなのですが、その辺りは常に意識しておく必要がありそうです。

 来月から、APAC Northへの挑戦権を争うJapan championshipが始まりますが、Sekiheki選手の所属するUSGもさっそくエントリーされていました。小並感ではありますが、Sekiheki選手の代名詞である「トゥームレイダーASH」が大舞台で躍動するさまがぜひ見たいです。陰ながら、応援しています。