ガジェットキルグランプリ2020夏

1. 序論

 レインボーシックスシージを評して「こんなにガジェットの比重が大きいFPSは他にない」と言う人がいたりする。中でも、フラググレネード、ニトロセル等、ガジェットで相手を飛ばすシーンは大会シーンにおいても見せ場となっている。派手な爆発とは裏腹に、ガジェットキルは的確な位置と状況の把握が必要な職人芸であり、玄人も唸る、まさに子供から大人まで楽しめるシークエンスである。

 そんなガジェットキルの環境であるが、Y5S3「Shadow Legacy」のアップデートがTTSを通過すれば、ドローンやカメラで黄色ピンを立てることが可能になる。これにより、相手の位置を気付かれずに特定することが従前と比べて容易となり、突き上げ等によるガジェットキルが増えることが予想される。従って、ガジェットキルに適したオペレーターの使い手がキルを増やし、今まで以上にチームへの貢献度を高める可能性があるだろう。

 ところで、私が知る限り、これまで「誰が一番ガジェットで相手を飛ばしているのか」を集計した例は見当たらない。ガジェットキル職人と呼ばれる選手は数多く浮かぶと思うが、彼らが一体どれだけのキルをガジェットで積上げ、他選手より優位に立ったのかは霧の中である。

 そこで本稿では、APAC North Division 2020 Stage 1におけるガジェットキル数を選手ごとに集計し、ランキング形式で記述する。前述の通り、このまま行けば来シーズンからガジェットキルの重要性がより上がるため、必然的にそれに長けた選手の存在感が増すだろう。今、このタイミングでガジェットキル数を可視化することは、来期のプロリーグを楽しむうえで役に立つのではないだろうか。

2. 方法

 APAC North Division 2020 Stage 1の全60試合の配信から、各選手のガジェットキル数を数え上げた。なお、DAY10のFAV Gaming vs Xavier Esportsにおけるラウンド4,5は、観戦の不具合?からアーカイブが残っておらず、カウントに含めていないことに留意いただきたい。

 ここで、ガジェットキルにはKaliのCSRX 300やBuckのスケルトンキーのような銃系のガジェットによるキルを含まないこととした。また、フラッシュグレネードでブラインドにした相手をキルするような、間接的なガジェットキルはカウントせず、あくまで直接的なガジェットキルを数え上げた。ガジェットで行動可能状態からデスに導いた場合に1Pt、行動可能状態から負傷状態、または負傷状態をデスさせた場合に0.5Ptを加算して積上げ、ランキング形式でまとめた。なお、観戦を観て全て網羅した気でいますが、もし数字に誤りがあればご指摘ください。

3. 結果と考察

  結果を以下に示す。まずは全体の傾向から見ていこう。下の円グラフに示す通り、全60試合、672ラウンド(除2ラウンド)でガジェットキルイベント(活動可能→デス、活動可能→負傷、負傷→デスの合計)は199回発生した。そのうち過半数がニトロセルによるもの、次点で約4分の1がフラググレネードによるものであった。クレイモアを押しのけて三番手に入ったのは遠隔ガスグレネードであり、対モンターニュ、対プラントを中心に数を伸ばしている。少数派について触れると、CCEシールドによる2回のイベントはいずれもAnitun選手によるもので、彼のClash力の強さを感じさせる。ブリーチングハンマーキルはBlackRay選手によるものだった。

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ガジェット別キルイベント発生数

 次に、チーム別のガジェットキルイベント発生数は以下の通りである。Giants、CAGがワンツーフィニッシュという結果となった。ガジェットキルイベントの内訳を見てみると、CAGは14/28がニトロセルによるものであるのに対し、Giantsは22/29がニトロセルである。CAGは前述のAnitun選手やBlackRay選手の例にもある通り、ガジェットキルのバラエティが豊富なのだが、Giantsは徹底してニトロセルによるキルで優位を取っている。たいていのチームは相手のプラントに対してニトロセルを投げ込みキルを取ろことが多いと思うが、Giantsは前線で投げる、エントリーに合わせて投げる、補強壁の駆け引きで投げる、カバーリングで投げる、と様々なシチュエーションでニトロを投げてくるヤバいチームであった。

 また、ふり~だ氏の言葉を借りるなら”めっちゃ鋭い槍で突いてくる”チームであるEFYは、意外とガジェットキルもしてた。主にFlash選手のニトロセルでキルを稼いでいたのだが、彼は来シーズンからベンチに回るので、もしかしたらEFYは文明を捨てて、エイムという槍をますます研いでくるかもしれない。

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チーム別ガジェットキルイベント発生数

 最後に、ガジェットキルイベント数を多く引き起こした選手TOP6を見てみよう。誰が今季最もガジェットで相手を飛ばしたのかが分かる。

 トップにはGiantsからJrdn選手がランクイン。フラグとクレイモアで1回ずつ相手を処したのを除けば全てニトロセルで相手を飛ばしている。彼の特徴として、飛ばした相手は全て負傷ではなくデスまでもっていっている点が挙げられ、精確できめ細やかなキルムーブを感じさせる。

 第2位はCAGのAyagator選手。SiegeGGによれば彼のメインオペレーターはMaverickとSmokeだが、やはり主にフラググレネードと遠隔ガスグレネードでキルを重ねており、フラグキルだけなら今季ナンバーワンのキル数を誇っている。

 第3位はGiantsから2人目、Lunarmetal選手。ガジェットキルは全てニトロセルであり、ニトロセル王国Giantsを象徴する選手ではないだろうか。

 第4位は同率でGUTSのLi9ht選手とFnaticのMag選手。Li9ht選手はCAG戦で魅せたカプカンのEDDが印象的だが、実はFAVキラーで、ShiN選手以外の4人をニトロで飛ばしている。Mag選手は個人的に「試合を終わらせるガジェットキル」ではなく、「口火を切るガジェットキル」が多いプレイヤーだと思う。

 第6位はGUTSのCrazy PapiyoN選手。ガジェットキルだけでなく器用に何でもこなす選手がランクインした。ちなみに今季のヴィラで最もガジェットキルした選手である。

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ガジェットキルイベント発生数TOP6

4. 結論

 本稿ではAPAC North Division 2020 Stage 1におけるガジェットキルの動向を観察した。所感として、Giantsが防衛でいかにガジェットをうまく使って人数有利を得ているかがよくわかる結果となったのではないだろうか。

 来シーズンはガジェットキルが容易になるかも、と前半で述べたが、それによってガジェットキル勢力図はどのように変化するだろうか。現状、ガジェットキルが多いチームがその特性を伸ばすのか、あるいはガジェットキルが当たり前に行われるようになり、そこで差をつけることが出来なくなるのだろうか。来シーズンの注目選手、注目チームを考えるうえで、参考になれば幸いである。

本稿の執筆に用いたガジェットキルのデータは全て載せるには長すぎたので、一部のデータの抜粋となっています。もしほかの選手のガジェットキル数が知りたい等、データについて何かあれば、Twitterでお声がけください。