HS率を見て、私たちは何を思えばいいのだろう

1. 序論

  私はもともと野球の民なんですが、セイバーメトリクスという考え方にはまってから、スポーツの魅力をどうすれば数字で表現できるんだろう?数字を見るだけで選手やチームの個性がありありとわかるって素敵じゃない?ということをずっと考えています。レインボーシックスシージの競技シーンを観戦するときも、如何せん戦術眼が無くて、派手なプレーで一喜一憂してしまうだけなので、数字を駆使してもっと奥まで感じ取りたいと思っています。

 そんな私なので、SiegeGGさんが毎試合出してくれるスタッツはしゃぶるように見るのですが、その中でひとつ、ある項目をどう解釈していいかわからなくて困惑しています。それが表記の通り、HS率、ヘッドショット率です。

 KD、EntryKDは当然FPSですから大事な数字です。SRVやplantでキル取り屋以外も評価できることは素晴らしい。一見複雑なKOSTだって、原理さえ理解してしまえばとてもとっつきやすい指標です。しかし、HS率、これは概念こそ簡単ですが、それが意味しているところが非常にわかりづらい。

 ご存知の通り、レインボーシックスシージにおいて、HSは大きな意味を持ちます。初心者がステップアップする上で「ヘッドラインを意識すること」が最重要項目として語られるように、基本的にHSを意識して皆さんプレイしていると思います。とはいえ、頭一個を精確に射抜くことは難しく、それがどんな局面でもできる人は「強い人」でしょう。従って、HS率というのは一見するとその選手の撃ち合いの「強さ」を示す指標のようです。しかし、各指標をよく見る人なら薄々感じていると思いますが、撃ち合いが強いとされているプロプレイヤー、必ずしもHS率高くないんですよね。Shaiikoとか普通に高い人もいますが、低くても撃ち合い猛者と称される選手はいます。例えば今シーズンの4大リーグにおけるHS率の平均は50%ですが、G2のCTZNはそれを下回る49%です。既に誰かと撃ち合ってHP激ローな相手と撃ち合うときなど、頭を狙うよりも胴を狙った方がいい場合もあると思うので、一概にHSを狙うことが正しい場面ばかりではない、という要素もあるでしょう。

 つまり、HS率は撃ち合いの強さを示す指標としては弱いことが推測されます。では、この指標は何を表す指標なのか?HS率が高いことは、何を表現しているのか?それが本稿の課題です。ここでひとつの仮定を置きます。HS率がシージにおける何かの要素を示す指標であれば、他にも指標はいろいろありますから、「HS率が増加すれば指標Aが増加/減少する」といった関係性を持つ指標Aがあるはずです。この仮定の下、本稿では、HS率と、シージで用いられる諸指標の相関係数を取り、HS率が何を示す指標なのか明らかにしようと考えています。

2. 方法

 SiegeGGより、4大リーグに参加した全204選手の指標を引用し、それらを加工した下記の指標を指標Aの候補として並べました。

kill/round、entry kill/round、plant/round、disable/round、survive/round、KOST、1vX

これらの指標とHS率の間のピアソンの積率相関係数Excelで計算しました。なお、ピアソンの積率相関係数が統計的に意味を持つのは用いた指標の度数分布が正規分布に従うときですが、今回はその検定を行っていない点にはご留意ください。

3. 結果と考察

  計算の結果は以下の通りです。

  kill/round entry kill/round plant/round disable/round survive/round KOST 1vX
HS%との相関係数 0.1818629 0.21064409 -0.105884788 0.01023369 -0.144162586 -0.107097477 0.055430517

 一般に、相関係数が±0.70~±1の範囲に収まっていれば、両指標の間には強い相関関係があると言えるそうです。それを踏まえて今回の結果を見ると、少なくとも今回取り上げた指標(≒SiegeGGからわかる指標群)とHS率の間に強い相関関係はありませんでした。これが何を意味しているのか、私なりの解釈を示します。

 まず、kill/roundですが、この数字が高ければキル数が多い殺し屋ということになりますので、この指標は撃ち合いの強さを示していると言えます。entry kill/roundも同様です。この2指標とHS率の間に強い相関がないということは、HS率は撃ち合いの強さを代表する指標ではないと言えるのではないでしょうか。

 また、これは相関があったらおかしい指標ではあるのですが、plant/roundとdisable/roundもHS率と強い相関関係にはありませんでした。

 目線を変えて、生存率を示すsurvive/roundや、総合的な貢献度を示すKOSTとの相関を見てみると、こちらも強い相関関係ではありません。HS率が高いと生き残りやすいとか、それによってチームへの貢献度が増す、ということもなさそうです。

 最後に、1vX、すなわちクラッチ力との相関はどうでしょうか。残念ながらここにも強い相関関係は認められず、HS率が高いからと言ってクラッチマスターであることは意味しません。

 以上、HS率が何を意味する指標なのか、今回の思考実験からは何も得るところがありませんでした。

4. 結論

 HSはレインボーシックスシージをプレイする上で常に意識すべきであり、大事な要素ではあるのですが、かといって、HS率が高いからこれがすごい、ということは今回の分析からは明らかになりませんでした。HS率は様々なキルシーンをまとめた結果でしかないので、HSを狙うべき場面とそうでもない場面の複合体です。従って、HS率という結果を見ながら選手の評価をすると誤謬が生じる場合が往々にしてあるのではないでしょうか。

 もしかしたら、1v1勝率みたいなものに対してHS率が相関を持つかもしれませんが、観戦画面の限界から、プロリーグを観ているだけでは1v1勝率を算出することが不可能なので立証できません。そもそも1v1も正面切っての撃ち合いだけではないので・・・。

 なんだか「調べてみました!→わかりませんでした!如何でしたか?」式の唾棄すべき記事になってしまいましたがご容赦ください。HS率が何を意味するのか、もう少し考えてみたいと思います。