Ashメインはサポーターになったか?:シーズン間のRating比較から
1. 序論
久しぶりの更新となりました。APAC Northが先日終わって、全世界的に今年のプロリーグのシーズンが終了しましたね。Shadow Legacyの今シーズンはいろいろとメタが変わったようで、ふり~ださんの言葉を借りるなら、「MIRA登場以来の環境の変化」だそうです。ACE、MELUSIは下図に示す通りかなりピックされ、それによって守りにくくなった拠点、硬くなった拠点が生まれました。PING2.0もちょくちょく猛威を振るっており、その影響か、ガジェットや決め撃ちによるキルも増えたように思います。
色々環境に変化があったのは事実なのですが、その一方で、"20 Second Meta"がDZの統計から話題になったように、攻撃側が爆発物を用いて破壊しなければいけないガジェットが多すぎる環境、いわゆるガジェットメタは、昨シーズンから引き続きといった感じ。むしろバンシーソニックディフェンスの登場によって、その流れは加速していると言えるでしょう。
We decided to analyze the "20 Second Meta" and its effects on competitive Siege. Here are 3 graphs detailing how the state of Siege has changed from the 2018 Invitational to yesterday's matches.
— PinkZero Esports (@DarkZeroGG) 2020年9月30日
(All data powered by @Siege_GG, graphics include over 56000 sampled rounds) pic.twitter.com/OmxTooFgFD
そんな中、ガジェットメタもここまで極まったか、と思わされたのが以下のCTZN選手のツイートです。
Ash role isn't cursed, Ash has been a "support" for a while now. You have to waste ADS's, clear shields AND then be first in the room to try and get entry with no utility left to help you. This meta has ruined the role of ash imho
— G2 CTZN (@CTZNr6) 2020年10月5日
レインボーシックスシージの伝統的アタッカーであるASHさんが、その高いガジェット排除能力から、もはや切り込み隊長ではなくチームのために動くサポーターとなったことが彼のツイートからうかがい知れます。少なくともG2においては、ファーストブラッドを取ってもガジェット抱えて刺し違えるよりは、最後まで生き残ってガジェットを壊し切ることに重きが置かれているのでしょうね。これまでASHメインは、チームの中でも一番派手な活躍をする花形ポジションだったと思うのですが、今の環境ではスタンドプレーよりチームプレーが重んじられるのでしょう。チームによるとは思いますが。
「ASHサポーターになった問題」は、件のCTZN選手のツイートを見て「はえ~」となっただけで私の中では終わっていたのですが、後日、シージ考察をよくなさっているじんさん(@jinn_lftm)が興味深いツイートをされていました。
@Siege_GG の表をみて気づいたんだけどRATINGでみたら最近のチームの大半で、Ashかイェーガーの両方もしくは片方を使ってる人のRATINGが低いことが多いんだよね。特にイェーガー。
— じん (@jinn_lftm) 2020年10月13日
例外はあっても多くの地域でこの傾向があるように見える。
以前からこの傾向があるのかは不明だけど、環境が要因?
Ratingとは、SiegeGGが出しておられるスタッツの一番左のやつです。選手の活躍を総合的に測る指標で、Kills per Round、Teamkills per Round、Multikills、Opening Picks/Picked、Clutches、KOST、Survival Rate、Trade Differential、Objectives Achievedの9つの観点から評価しています。総合的な評価ではあるのですが、基本的にチームのアタッカー、キル取り屋の数値が高くなる指標でもあり、Ratingが高い=キルが多いと捉えて大方問題ないと思います。
アタッカーが評価されやすい→アタッカーはAshメインであることが多い→AshメインのプレイヤーのRatingは高い、という論法が自然と成り立つ気がするのですが、しかし、じんさんによれば、この論法がここ最近崩れているようです。前述のCTZN選手のツイートのように、Ashがサポート寄りの役職に転換されていることが、Ratingの低迷という形で表れているのかもしれません。
前からある傾向ではあるんですね〜。
— じん (@jinn_lftm) 2020年10月13日
僕はアッシュは立ち位置がややサポートによったからかなと思っていましたが、言われてみればボンゴレさんの仰る通りかもです…
かなり興味深いテーマだったので、じんさんの許可を得て、アイデアをパクることにしました。本稿では、Ashが近年のメタによってサポート寄りになっているかどうか理解するため、AshメインのプレイヤーのRatingをシーズン間比較します。Ratingに加えて、サポーター化していれば減少していることが想定される、オープニングデュエル数についても比較を行います。
2. 方法
いつも通り、俺たちのSiegeGGからデータを参照します。データを参照した大会は以下の通りです。Stage 1、Stage 2の2つの集団に分けて議論します。
・US Division 2020 Stage 1
・European League 2020 Stage 1
・Brasileirão 2020 Stage 1
・APAC North Division 2020 Stage 1
・US Division 2020 Stage 2
・European League 2020 Stage 2
・Brasileirão 2020 Stage 2
・APAC North Division 2020 Stage 2
参照するデータは、AshメインのプレイヤーのRatingおよびEntry+/-としました。Entryのキル数とデス数の和を、そのプレイヤーのオープニングデュエル数とし、これをマップ数で除した数値としてOp duel/mapを用いました。リーグを皆勤した75選手が対象です。RatingをX軸、Op duel/mapをY軸として散布図を取り、地域ごとにシーズン間比較を行うことで、Ashのロールチェンジが起きているかを推測しましょう。
3. 結果と考察
以下に、US、EU、Brazil、APAC NorthのRatingとOp duel/mapの散布図を示します。「Ashがアタッカーからサポート寄りになっている」という仮説が正しければ、Stage 1からStage 2にかけてプロットの集合が右上から左下に推移しているはずです。
…いかがでしょうか?
散布図で見ると一目瞭然ですが、Stage 1とStage 2で、AshメインのRatingとOp duel/mapはあまり変わっていないようです。思ったより同じシーズン内でも選手によってRatingに差があることが見て取れます。Ashを使っているからRatingが高い、という当初の仮定がそもそも間違っているようです。ただし、Stage 1の時点で大概ガジェットメタだったので、これよりもっと遡って比較すると差が出るかもしれませんね。
特筆すべきはオープニングデュエル数にばらつきがあることでしょうか。単純に考えて、オープニングデュエル数が多いAshはアタッカー運用をされているでしょうし、それが少ないAshはいのちだいじに運用をされているサポータータイプでしょう。Ashが一概にFBのやり取りをしているわけではないことは、じんさんやCTZN選手の仰るサポーターAshの存在を裏付けます。ただし、そうしたサポート気質のAshがStage 1からStage 2にかけて増えているわけではないことには留意する必要があります。やはり、Ashのサポーター運用のトレンドが始まったのは半年以上前なのかもしれないですね。
4. 結論
昨今のガジェットメタによって、Ashがサポーター運用されているのかどうかをRatingとオープニングデュエル数の観点から調べました。結果、Ashのサポーター運用の傾向はチーム差が大きいこと、ガジェットメタが顕著になり始めた今年初頭くらいから始まっている可能性があることが示唆されました。
そのものずばりな結果は導きだせませんでしたが、ともあれ、Ashをガジェット壊す要員として温存せざるを得ない環境は、彼女の切り込み隊長としてのポテンシャルを損ねている気もするので、いい感じのメタが今後形成されると良いですね。