ファーストブラッドまでのキルタイムと勝率の関係:APAC North Stage2を題材に

0. 前置き

 今回はタイトルの通り、ファーストブラッド(以下、FB)がラウンドの勝敗にどのように影響するのかを、APAC North Stage2を題材に調べてみようと思います。FBを取ることで攻撃/防衛はどれだけラウンドを取得しやすくなるのか?また、FBの時間帯によってその傾向は変化するのか?といったあたりを見ていきたいと思っています。

 ところで、前回に引き続き、今回も題材としているのは僕のアイデアではないです。とあるお二方にアドバイスいただき、それを基にデータ収集、分析を行った記事になります。2回続けて他人の褌で相撲を取るのもアレな気がしますが、ご容赦ください。アイデアくださったお二人、ありがとうございました。

1. ファーストブラッドとは

 釈迦に説法な気がしますが、ファーストブラッド、FBとは、ラウンドで初めて発生したキルのことを指します。レインボーシックスシージはリスポーンがありませんから、FBを取る=人数有利を得るということであり、戦術的アドバンテージがバカみたいに高い一手です。

参考:

www.youtube.com

 「FBを取ると有利」は自明ですが、しかし、「FBを取るとどのくらい有利になるの?」という問いにパっと答えられる人は意外と少ないのではないでしょうか。「何となくこう」と思われていることを定量的に示すことは、自分自身の行動の取捨選択に役立ちますし、他人と共通認識を作る際にも重要です。そこで本稿では、冒頭でも述べた通り、FB取得による勝率の向上など、FBにまつわるエトセトラを定量的に明らかにしていきます。

2. データの収集方法

 今回はSiegeGGにないデータを扱うため、APAC North Stage2の全試合を観戦し、下記のようなスコアをつけることで、データセットを整えました。途中、配信のトラブルによって試合展開が追えず、データセットに入れることが出来なかったラウンドがいくつかあります。ご容赦ください。また、目視で時間を測っているため、FBの起きた時間、ラウンド終了時間などは若干の誤差がありうることにご留意ください。ちなみに、迷ったのですが、CAGの最終戦はデータセットに加えました。

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 3. FB取得時の攻撃/防衛側勝率

 FBを取得した場合、攻撃/防衛でそれぞれラウンド勝率はどのようになるのでしょうか。下の表にまとめてみました。

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 サンプル数は640ラウンドです。640ラウンドのうち、攻撃側がFBを取得したラウンドは336ラウンド、防衛側が取得したラウンドは304ラウンドでした。だいたい取得数は攻防で大きく変わらないのですが、特筆すべきはFBを取った際の勝率です。攻撃側がFBを取った場合、208/336ラウンド、すなわち61.9%の割合で攻撃側がラウンドを取得しています。これも結構高い数字だとは思いますが、防衛側がもっとすごくて、FBを取った場合、227/304ラウンド、74.7%の割合でラウンドを取得しています。

 今シーズン、トータルの攻撃取得率が44.3%、防衛取得率が55.7%ですから、やはりFBを取ることで攻防ともに、特に防衛で、ラウンド取得の可能性が高まることが改めて示されました。ただし、FBは運否天賦な部分が多少なりともあり、狙って取れるものではないと思いますから、「勝率上がるからFB狙う」というよりも「FBを取った/取られたから対策を考える」という考え方の方が良いと素人ながら思います。

4. FBまでのキルタイムが勝率に及ぼす影響

  次に、FBまでに要した時間によって勝率が変化しうるのかを見ていきます。一口にFBと言っても、想定していない局面でのFB、例えばリスキルだったり早々に遊撃が倒れてしまったり、といった場合にはその後の立て直しが大変でしょうし、逆に、終盤のカバーの応酬の中でのFBは、コラテラルダメージとして許容できる部分があるでしょう。FBが発生した時間帯によって、そのラウンドの勝率はどのように変わるのでしょうか。本稿では、開始0秒から60秒までを序盤、60秒から120秒までを中盤、120秒からラウンド終了までを終盤として場合分けし、それぞれのラウンド勝率を見ました。下表がその結果になります。

 

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 攻撃側、防衛側で異なる傾向が見えてきます。攻撃側は序盤にFBを取った際の勝率が最も高く、終盤に行くにしたがって勝率が下がっていきます。一方、防衛側は終盤のFB獲得による勝率が最も高く、序盤は若干低い数値となっています。この結果は、裏を返せば、防衛側は序盤にFBを取られると、攻撃側は終盤にFBを取られるとかなり不利になる、ということが言えます。

 すなわち、序盤のFBの攻防は防衛側にとってハイリスクそこそこリターンであり、そこで削り合わずに終盤まで5人生存していれば勝率が上がります。一方、攻撃側は序盤に人数有利を取れればかなり防衛側に対して有利になるため、積極的な仕掛けが吉かもしれません。言い換えれば、序盤に撃ち合いが発生した際、攻撃側がFBを取れれば攻撃側にぐっと勝率が傾くこと、防衛側はFBを取れなくても、とりあえず死ななければ勝率が高まることが示唆されました。

5. FB争奪戦で優位に立っていたチームはどこか

 最後に、少し見方を変えて、FBを最も多く獲得したチームはどこだったのか、調べてみましょう。下グラフがシーズン通しての各チームのFB獲得数です。これはSiegeGGのEntry +/-を引用しています。

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 各チームでラウンド数が違うため、一概に比較はできませんが、SCARAZが群を抜いて少ないほかは綺麗に並んでいます。FBを積極的に取ろうとして、実際にとれているチームというのは特段いないようですね。ここで大きな差はついていないようです。

6. 結論

 本稿ではFBについて、FB取得時の勝率、FB取得の時間帯と勝率の関係、各チームのFB争奪戦の3つの観点から分析を試みました。その結果、

① FBを取得することで攻防ともに勝率は上がり、特に防衛でその傾向が大きい

② 攻撃側は早めのFB、防衛側は終盤のFBが特に勝率に寄与する

③ FBをずば抜けて多く取ったチームはいなかった

ということが分かりました。FBは勝利のために重要なファクターではあるのですが、狙って稼ぐことは難しそうですね。

本稿では取り上げませんでしたが、チームごとのFBの傾向はもう少し深掘りする要素があるように思います。チームごとのFBのキルタイムを見るのも面白いかもしれません。感覚的に、GUTSの試合はFBが発生する時間が早い気がしてます。

 最後になりますが、改めて、「FBのデータ取ってみたら?」と提案してくださったご両人に感謝の意を述べたいと思います。ありがとうございました。今後とも数字の話をさせてください。