Sengoku Gamingに見る「セカンドブラッド」の重要性

1. 序論:RJL2021におけるファーストブラッド取得率と取得時勝率

 暖かい通り越して暑いくらいの今日この頃、皆様いかがお過ごしでしょうか。RJL2021は第3節が終わり、いよいよ今週末には無敗同士の首位攻防戦が待ち構えています。CAGがこの位置にいるのはまあ順当と言えますが、ピッタリその背中に着けているチームがAPAC Northに属するFAVでもGUTSでもなく、Sengoku Gamingであるということは、失礼ながら些か予想外と言えるのではないでしょうか。レジェンドプレイヤーであるReyCyil、Ramuだけでなく、"ハッピーボーイ"A1kyan、"始まりの勇者"Febar、"ラストサムライ"YahooNという凸凹三銃士がそれぞれいい味を出しており、ここまで絶好調と言えるでしょう。土曜日が楽しみですね。

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 ここに一つの興味深いデータがあります。表記の通り、ここまでのFB取得率と取得時の勝率を8チーム分、下の散布図にプロットしました。

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 半年ほど前にこのブログでも取り上げたように、ファーストブラッド、FBを獲得することができれば、攻防に関わらずラウンド勝率は向上することが知られています。

vongole-domingo.hatenablog.com

  従って、散布図の縦軸、FB取得時勝率を見ると、全てのチームが50%を越えており、勝率の向上を感じることができます。そしてここから、「順位が高いチーム=ラウンド取得率が高いチーム=FBを多く獲得しているチーム」というもっともらしい仮説が立ちます。しかし、横軸に着目して散布図を見てください。何だか変な位置にいるチームが見えませんか?

 Sengoku Gaming(以下、SG)は現在無敗で2位につけているにもかかわらず、FB取得率が40%に満たず、8チーム中ワーストとなっています。FB取得時の勝率は約7割と流石の数値を取っていますが、そもそもFBが取れていないため、先の仮説から外れたチームとなっています。FBを取り、人数優位を確立して試合を運ぶことは勝利のための定石と言えそうですが、ことSGに関してはこの原則が通用しません。なぜこのような現象が起きているのでしょうか。

 試合を何回か見たりTwitterで聞いたりして、自分なりにこの反例に対して新たな仮説を立てました。SGというチームは取りたいエリアを取るためにいわゆるファーストペンギンのようなフラッガーの使い方をしており、先頭が潰されても、それを基に情報を得たり引きを抑えたりピークを誘ったりクロスを崩したり、2の矢3の矢で相手を潰してエリアを取り切る的な動きを意図している、というものです。すなわち、チームのプラン上、FBを拾ってマクロな人数有利を活かすという考えが薄いのではないでしょうか。

 もしそうなら、SGの強さを数字で示すためにはFBのみならず2回目の命のやり取り、「セカンドブラッド」のデータを持ってくる必要がありそうです。SGがセカンドブラッドを多く取得しており、かつ、その際の勝率が高ければ、もしかするとそれがSGの強さを示す指標になるかもしれません。

 ということで、本稿では、RJL2021におけるSGのセカンドブラッドに関するデータを集計し、SGの強さの要因に1ミリでも近づくことを目的とします。

2. 方法:セカンドブラッドの集計

 RJL2021を観戦しながら、下表のようなキルログを全試合分(第3節まで)記録しました。

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  このキルログから、ファーストブラッドを獲得したチーム、セカンドブラッドを獲得したチーム、ラウンドの勝敗を抽出し、集計に用いています。

3. 結果と考察:SGはセカンドブラッドで優位に立っているか?

 SGがプレイした全76ラウンドにおけるセカンドブラッド事情を下表に示します。

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 ファーストキル、セカンドキルを取って人数状況5-3になった際にはほぼ確実にラウンドをものにしていることが分かりますが、この表で注目してほしいポイントは右の2列、「SGがファーストデス」したシーンの勝率分布です。
 ラウンド数を見ると分かるのですが、SGの試合で最も多い展開は、「SGが最初に1枚失うも、そのあと取り返して4-4に持っていく」というものです。やはりFBをきっかけに盤面を動かしトレードに持ち込むことで、エリア状況は優位にしつつ人数イーブンを保つという戦局を作り出しています。そうなると、攻撃なら侵攻が進んでいる、防衛ならエリアを取り返しているあるいはキープしているという状況が想像されるため、SGの優位が保たれ、ラウンド勝率が70%と高め安定になります。ここから、他のチームとの相違点として、SGはFBを取られた後にトレードを成功させるクオリティが高く、それが勝利に強く結びついていることが挙げられるかと思います。

 SGだけ見てもピンとこないと思うので、FB取得時勝率が同程度のTeam NORTHEPTION(以下、Nth)を比較対象として持って来ましょう。Nthがプレイした全95ラウンドにおけるセカンドブラッド事情を下表に示します。

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 SGと異なる傾向が見て取れます。Nthの勝ち筋はFB取得後、勢いに任せてセカンドブラッドも取得するスタイルであり、こうなると85.2%の勝率を誇っています。逆に、ファーストブラッドが取れたとしても、トレードにつなげられると勝率は大きく下がり、よくて5割、という感じになっていますね。ファーストデス後、セカンドキルでトレードに持ち込んだとしても、Nthは勝率44.4%にとどまっています。Nthも大概特殊なチームですが、SGの傾向が他チームとは異なる、という傍証になるのではないでしょうか。

4. 結論

 ちょっと無理やりな感じもしますが、SGはファーストブラッドで優位を取るチームではなく、セカンドブラッド以降も含めてデスで盤面を動かしつつ最終的に誰かが生き残る、という形を指向しており、それが成功しているチームと言えるのではないでしょうか。ファーストブラッドを取ることは勝利のために重要な要素ですが、仮にそこで人数不利を背負ったとしても、そのデスを無駄にせず盤面を動かす駒として使うということが、実は一番重要なのかもしれません。(一般化できない変態的な戦術な気もしますが)

 SGで一番先頭を務めている選手は状況に応じてFebar選手かA1kyan選手のどちらかだと思いますが、彼らは単なるフラッガーではなく、チームのために身を張るサポーターと言えるかもしれないですね。彼ら個人のエントリーのスタッツが良くなくても、後続の仕事を楽にするための貢献が十分にできているという証左が、SGの現在の順位に表れているかと思います。

 なんにせよ、今週末のSGとCAGの天王山第一ラウンド、我々視聴者は「セカンドブラッド」に注目して見ると面白いかもしれませんね。おすすめです。