サッチャーBANは防衛有利な環境を作るか?:US Division 2020 Stage 1を事例に

1. 序論

 先週、APAC NorthにおけるサッチャーBANの有効性について検証した。

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  その結果、サッチャーBANの有無によって防衛取得率は変化するが、予想とは異なり、サッチャーBANは防衛取得率を下げることが示唆された。もちろん、サンプルとして用いた試合データは、チームの強弱、防衛の得手不得手がバラバラなので一概にサッチャーBANが無意味とは言えないことは留意が必要である。しかし、そのサンプルのばらつきも、サンプル数を増やすことである程度解消されると考えられる。

 そこで本稿では、APAC Northに引き続き、4大リーグのひとつであるUS DivisionにおけるサッチャーBANと防衛取得率の関係を考える。

2. 方法

SiegeGGのCompetitionsより、US Division 2020 Stage 1およびSix August 2020 Major - North AmericaにおけるオペレーターBAN状況、攻防取得ラウンド数、使用マップを参照した。参照したマップ数は63マップである。*1*2

 集計したデータは下表のとおりである。その後、APAC Northのデータと併せて、合計136マップの情報を取得した。

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集計したUS DIvisionのBANデータ

 3. 結果

 APAC North、US Divisionの今期のデータを集計したところ、下表のように、サッチャーBANにより防衛取得率が微減することが分かった。(55.8%→54.1%)

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 もちろん、サッチャーBANが有効に働くマップ、そうでないマップがあるため、全体の傾向は参考にしかならない。そこで、マップ別のサッチャーBANの有無による防衛取得率の変化を調べた。結果が下表である。

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 その結果、クラブハウス、オレゴン、ヴィラ、領事館、カフェの5マップにおいて、サッチャーBANをしない方が防衛取得率が高い、という結果になった。これは、防衛取得率の向上を目的としたオペレーターBANを行う場合、サッチャー以外の攻撃オペレーター(割職、ノマド、カピタオ、インなど)をBANした方が有効であることを示唆している。

 一方、海岸線、テーマパークにおいてはサッチャーBANにより防衛取得率が高くなった。海岸線は補強壁の駆け引きがほぼないといってよく、そのためサッチャーがBANされることは少ないが、その少ないサンプルにおいてはサッチャーBANが有効に働いたことが示唆された。テーマパークは現状、全くの新マップであり、サッチャーBANによりメタが変わることによる影響が比較的大きい。この2マップでサッチャーBANが有効に働いたことから、サッチャーBAN戦術は想定された状態で敷かれても大した効果がないが、新マップやそもそもサッチャーの重要性が高くないマップでは有効に働く可能性がある。

4. 結論

 前回の記事と同様に、サッチャーBANは防衛取得率を高めないことが示唆された。新たな知見として、北米のミニメジャーではサッチャーBAN率が2/15であり、もはやサッチャーBANが戦術として有効でないことが北米では気付かれつつあるのでは?という可能性が示された。昨年後半から徐々に流行りだしたサッチャーBAN戦術(下グラフ)であるが、プロシーンにおいては練度の高まりとともに通用しなくなってきており、そろそろ流行の終わりが近いのかもしれない。BANが固定化された環境よりは流動性が高い方が見る側としては面白いので、北米ミニメジャーで見られた傾向の変化は歓迎すべきものではないだろうか。

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